YY

直感的に理解する!! 軌跡と領域のトポロジー

はじめに

 みなさんこんにちは。Wathematica Advent Calendar 12/9担当、応用物理学科3年のY・Yです。私は高校生の時、軌跡や領域の問題がちょっと苦手でした。(よく条件を見落としていたり、除外点を除き忘れていたりしたためです。)さらに、1年生の時「数学概論B」という授業で位相空間が何を言いたいのかなにも理解できずに絶望しました。しかし、軌跡や領域の問題は集合のトポロジカルな性質を考えるうえで絶好の例であること、そして位相空間を理解していれば位相的に絶対にありえない軌跡や領域を描いてしまうことはないということを今更になって気づきました。位相空間に苦しんでいる1,2年生、そして軌跡と領域に苦しんでいる高校生(?)の役に立てれば幸いです。
 (注意:この記事は位相空間を直感的に理解できる手助けになるよう書いているので、ところどころ議論が荒いかもしれません)

軌跡の問題の例

家に残っていた高校数学の本が青チャートしかなかったのですが、このなかに、こんな問題がありました。

mが実数全体を動くとき、
\left\{ \begin{array}{ll}  mx-y=0 & \dots (a)\\ x+my-m-2=0 & \dots (b)\end{array} \right.
の交点Pが動く軌跡を求めよ。

解答:円\displaystyle(x-1)^2+(y-\frac{1}{2})^2=\frac{5}{4},ただし点(0,1)をのぞく。

求める軌跡は図1のようになります。

図1 点Pの軌跡

さて、この問題の本筋の解答としては、(a),(b)からmを消去する方法が考えられますが、図形的に考えても、軌跡が円C:\displaystyle(x-1)^2+(y-\frac{1}{2})^2=\frac{5}{4}の一部であることはわかります。(この記事の目的はそれを解説することではないので省きます。)それでは、除外点がただ一つ存在することはどのように直感的にわかるでしょうか?

軌跡を写像の像として見る

今回の軌跡は写像
f :m\in\mathbb{R}\rightarrow \mathbb{R}^2\ni P(x,y)
の像f(\mathbb{R})を求めるということに対応しています。逆に、図を見ると明らかなように、円C上の点Pを一つ決めると、直線OP:y=mxの傾きmが一意に定まります。
すなわち、f全単射になります。
さらに、点Pは円C上を連続的に動き、直線OPの傾きも連続的に変化するので、fおよびf^{-1}全単射連続写像になる、すなわちf同相写像になります。
さて、ここから円C全体が求める軌跡でないことは次の定理から分かります。

定理 その1
X,X位相空間で、Xがコンパクトであるとき連続写像f:X\rightarrow X'の像f(X)もコンパクト

これは、1次元の最大値最小値の定理の一般化になっています。さて、円Cは明らかにコンパクト(有界閉)ですので、f(\mathbb{R})が円Cだと仮定すると、f^{-1}(円C)=\mathbb{R}もコンパクトであることになり、実数がコンパクトでないことに矛盾します。
実際
f(m)\rightarrow (0,1) ,(m\rightarrow \pm\infty)
となり、点(0,1)が除外点であることが分かります。これがただ一つの除外点であることは中間値の定理を一般化した次の定理より従います。

定理 その2
X,X'位相空間で、Xが連結であるとき、連続写像f:X\rightarrow X'による像f(X)は連結

領域の問題の例

同じく青チャートから

x,y\in\mathbb{R}x^2+y^2\leq 1を満たすとき、
 (\star)\left\{\begin{array}{l}u=x+y \\v=xy\end{array}\right.
としたときの (u,v)の領域を求めよ。
解答:\frac{1}{2}u^2-\frac{1}{2}\leq v \leq\frac{1}{4}u^2(図2の斜線部分)

図2 (u,v)の領域

この問題を初めて見た人がよくする間違いとして、x^2+y^2=u^2-2v\leq1から
v\geq\frac{1}{2}u^2-\frac{1}{2}
としてしまうというものです。実際には、(\star)を満たす(u,v)の組が存在する必要十分条件として、v\leq\frac{1}{4}u^2が必要です。
この問題も、位相空間が分かっていればこのような間違いはしません。

領域のトポロジーを考える

この問題も連続写像
g:(x,y)\in D\rightarrow \mathbb{R}^2\ni (u,v)
の像g(D)を求める問題と考えることが出来ます。
ただしDは定義域
D:=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2 | x^2+y^2\leq1\}
です。
領域Dは明らかにコンパクト(有界閉)なので、定理その1からg(D)もコンパクト(有界閉)になるということが分かり、先ほどの間違いでは領域が無限に発散してしまっているので、何か条件が足りていないことが分かります。*1

領域の「かたち」はトポロジーでどこまでわかるか

皆さんお気づきでしょうが、上の問題で出てきた写像g全単射ではありません。(x,y)(y,x)gで同じ点に移ります。そこで、領域E
E:=\{(x,y)|y\geq x\}
を考え、写像gD\cap Eへの制限
 g|_{D\cap E}:D\cap E\rightarrow g(D)
を考えると、証明は省きますが、これは全単射連続写像になります。
領域D\cap Eは図3のようになります。

図3 D\cap E

実はこれは、次の定理から同相写像になっています。

定理その3
Xがコンパクト空間、X'ハウスドルフ空間であるとき、f\rightarrow X'が連続な全単射写像ならば、f同相写像である。

さらに、gのヤコビ行列を考えると、
Dg:=\begin{pmatrix}\frac{\partial u}{\partial x}&  \frac{\partial v}{\partial x}\\\frac{\partial u}{\partial y} & \frac{\partial v}{\partial y} \\ \end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&1\\y & x\\\end{pmatrix}
となり、y>xでは正則になります。
したがってgC^\infty級であることと逆写像定理から、g(D\cap E)^og^{-1}C^\inftyであることが分かります。
このことから、g|_{D\cap E}微分同相写像になっていることが分かります。
実際図3の境界は図2の境界に移り、図3の尖点は図2の尖点に移っていることが確かめられます。

まとめ

位相空間論はどうしても集合の形式的な論理が多く、苦手に思う人も多くいると思います。しかし、こういう軌跡・領域の問題等と組み合わせることで、直感的に摑みやすくなってくれたらいいなと思います。( \mathbb{R}^nの位相が性質が良すぎるんじゃないかと言われたらそれはそうですが……)

参考文献

1) チャート研究所(2017),改訂版 チャート式 基礎からの数学II+B,数研出版
2)松坂和夫(2018) 新装版 集合・位相入門,岩波書店
3)坪井俊(2005)幾何学I 多様体入門, 東大出版

*1:領域が有界であっても閉集合でなければ像が有界になるとは限りません。